無形文化遺産の若き継承者

2024-05-17 11:58:00

ブロガーが伝統技芸を復活 

ここ数年、抖音(ドウイン)(ティックトック)や快手(クアイショウ)といったショート動画共有サイトには、伝統文化や技能の再現を通じて無形文化遺産を発揚するセルフメディアの青年ブロガーらが現れている。こういった人たちは、多様な表現形式によって無形文化遺産の最も美しく、最も真実の、最も人を魅了する面を示し、私たち祖先の豊かな精神的財産をより感動的な姿で大衆の視野に再び戻している。 

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湖南省に住むプロのブロガー向清標さん(33)は昨年4月、「山白」のアカウント名で、海外に向けて中国の伝統的な手工芸の制作過程ドキュメンタリーをショート動画シリーズで発表した。向さんは撮影を担当し、おいの向宏俊さん(23)が伝統技術の再現の重責を担った。その伯父とおいが最も精力を注いだ作品が、『金1両の名墨――徽墨の伝統製法』だ。 

制作に500日をかけ、5分58秒に凝縮されたこのショート動画は、ネットにアップされるとたちまち大人気となった。漆の採取から精錬、すすの採取と洗浄、墨の鍛造……宏俊さんの手により徽墨が少しずつ形となっていく。そこには大げさなストーリー展開や刺激的な逆転はなく、せりふ一つさえない。淡々とありのままのドキュメンタリーだが、これが非常に視聴者の心を打った。 

ティックトックのショート動画の再生回数は3億7000万回を突破し、寄せられた「いいね!」も1000万を超えた。ネットユーザーは、徽墨の「漆のような書き味で、長く色あせず、筆は紙に貼り付かず、筆跡は滑らかできめ細かい」という特性に驚嘆。昔ながらの墨の製造技法についても熱い議論を展開し、累計コメント数も53万件を超えた。 

その後、伯父とおいの二人は次々に、からむし織りや唐傘、竜泉朱肉、カジノキ紙といった無形文化遺産の伝統技術を再現。その一つ一つの動画には、入念な作り込みと時間が沈殿した痕跡にあふれている。清標さんによると、動画撮影はそもそも『中国無形文化遺産大辞典』に触発されたという。無形文化遺産の古い製造方法を忠実に再現するため、二人は工芸技術の各プロセスを丁寧に確認し、数十冊もの参考書を読みこんだ。また、明代に書かれた産業技術書『天工開物』を何百回も調べ、関連する伝統技術の継承者を訪ね歩いた。 

伝統手工芸の動画撮影は時間も労力もかかり、効率を重視するショート動画界では異例だった。それでも、「山白」の作品が好きなネットユーザーは、「われわれが好きなのは、こうした伝統技術への畏敬の念や悠々自適の生活態度で、この純粋さは古い無形文化の継承をよりロマンチックにさせ、永遠に動画の更新を促すことはない」という共通認識を相次いで表明した。 

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動画では、国の無形文化遺産である河南省確山県の伝統芸「確山の鉄花火」の技をマスターするため、江さんは河南省に赴き、師匠でこの技の継承者である楊健軍さん(74)に弟子入りを志願する。だが江さんが来意を告げると、楊さんは即座に手を振り断った。 

「鉄花火」は、摂氏1600度に溶かした鉄くずを夜空に打ち放つパフォーマンスだ。鉄くずを空高く散らし、それが高くて細かいほど、落ちて来る間に素早く冷やされ、不用意にやけどする人も少ない。だから、鉄花火を打ち放つ人は十分な力を持っていなければならない。こうしたことから鉄花火の伝統芸には一つの不文律ができていた。すなわち、男子だけの継承で、この千年来、女性の弟子は一切受け付けてこなかった。 

しかし江さんは諦めなかった。江さんの強い意志と粘り強さに、楊先生もついに折れて入門を許した。江さんは訓練初日から、毎日朝から晩まで練習に打ち込み、「食事では思わず手が鉄花火を打ち上げる動きをし、夜も夢にまで鉄花火を見た」ほどだった。 

数カ月の練習を経て、江さんはついに一人前として認められ、最後に砂漠で実演を行うことになった。これまで数えきれないほど練習したとはいえ、本番となると、やはり少し怖さを感じた。「その時初めて分かったんです。鉄花火の難しさは技術ではなく、激しい火花を目の前にして感じる恐怖を克服することだと」 

幸い全ては順調に進んだ――溶けた鉄が空高く舞い上がるとともに、光輝く鉄花火が闇夜に満開の花のように広がり、「鉄の木から銀色の花が落ち、満天の星がきらめく」究極の幻想的光景が人々の前に繰り広げられた。この時みんなが女性の粘り強い力と勇敢さを目にしただけでなく、中華の無形文化の輝きと多彩さも見た。 

鉄花火の他にも、江さんは多くの無形文化遺産の工芸技術を再現した。また同時に、多くの伝統技術文化の技が、継承者不足という苦境に直面していることを知った。「こうした継承者から学んでいるとき、彼らはレッスン料を受け取りませんでした。それは、私を通して多くの人に無形文化遺産の素晴らしさを知ってもらいたい、その思いだけだったからです。それはまた、私の活動は単に素晴らしい動画を撮るだけの簡単なものではなく、私も無形文化遺産の技を継承し発揚する使命を担っていることを気付かせてくれました」 

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