気候変動問題で世界の主導的立場へ
クリーンエネルギー転換が加速
20年9月の国連総会で、習近平国家主席は「中国は30年までにCO2排出をピークアウトさせ、60年までにカーボンニュートラルを達成する」と宣言し、「先進諸国」に衝撃が走りました。この習主席の宣言通り、中国では脱炭素化、クリーンエネルギー転換の取り組みが加速しています。
21年3月の全国人民代表大会での李克強総理(当時)による政府活動報告で「カーボンピークアウト」と「カーボンニュートラル」に向けての諸活動を着実に実施し、30年までのカーボンピークアウトに向かう行動プランを策定することが政府の重要任務とされました。そして10月、国務院が「30年までのカーボンピークアウトに向けた行動プラン」を発表。30年までのカーボンピークアウトを実現するため、25年と30年までの目標をそれぞれ掲げ、25年までに単位GDP当たりのエネルギー消費量とCO2排出量を20年比でそれぞれ13・5%、18%削減し、非化石エネルギー消費の割合を20%程度に引き上げるとしました。さらに、30年までには単位GDP当たりのCO2排出量を05年比で65%以上削減し、非化石エネルギー消費の割合を25%程度に引き上げ、カーボンピークアウトを着実に実現するとしました。22年6月には、住宅都市農村建設部と国家発展改革委員会が「都市・農村建設分野におけるカーボンピークアウト実施方案」を発表。昨年4月には、国家標準化管理委員会、国家発展改革委員会、工業・情報化部などが「カーボンピークアウト・カーボンニュートラル標準システム建設指南」を発表し、エネルギー、工業、交通運輸、都市建設、水利、農業・農村、林業・草原、金融、公共機関、市民生活などの分野におけるカーボンピークアウトとカーボンニュートラル標準システムを制定しました。
これらの数値が産業経済においてどんな重みを持つのか、産業の実務に疎い私たちにとってはなかなかイメージできないのですが、エネルギーのグリーン低炭素転換、省エネルギーや交通輸送のグリーン低炭素化などの取り組みと共に、グリーン低炭素科学技術のイノベーションが強調されていて、大学に新エネルギー、蓄電、水素、炭素排出削減、カーボンシンク、炭素排出権取引などの学科を設置し、人材育成を図ることを目指すことが掲げられていることは注目すべきことだと考えます。
何か新しいことに取り組む際にそれを担っていく人材をどう育てるのかは、日本でも常に目に、耳にするとても重要な課題なのですが、なかなか容易ではないのが実情です。中国がイノベーション能力向上と人材育成を強化することを強調して掲げていることは、今後の中国での低炭素社会の実現に向けての展開を見ていく上で重要な「伏線」となっていることを見落とせません。
こうして振り返ってみると、中国の政策立案と実行能力の力強さ、目標を単にお題目にしない決意のほどを知ることになります。つまり、中国は常に「有言実行」だということです。中国と向き合う基本視座に関わる数多くの示唆を、ここでも告げ知らされます。
先進の中に意外な「盲点」も
ところで、中国人の友人と話をしていて、「最近のテレビニュースで見る北京の空はひと頃のひどいスモッグも消えてずいぶん変ったように感じるが、やはりEVの急速な普及が大きいんじゃないですか」と聞いてみたところ、「一時は本当に息をするのも辛いひどい大気汚染だったが劇的に変わりましたね」と言った後「ただし、厳しい寒さの冬の間は暖房に石炭を使うので、まだまだ安心はできない」と続けました。さらに、「EVにも実は大きな課題があることが分かったのですよ」と言って、昨年末に東北地域、内蒙古自治区などを襲った強い寒波による豪雪で電気自動車の「弱点」が明らかになったと言うのです。
例えば、普通1回の充電で4~500㌔は走れるのが、厳しい寒冷下では電池のパワー低下によって走行距離が半分くらいに落ちてしまうことや、暖房を強くすることで電力消費がより早まってしまったり、積雪で充電スタンドなどの施設が雪に埋まって充電が大変だったり、さらに、EVではドアのロックに始まり全てのシステムがスマート化されていて指紋認証やスマートフォンで行うのですが、氷点下40度といった極寒の中では指紋認証ではドアを開けることができなかったりと、EVの優れたセールスポイントが弱点となってしまったと言うのです。なるほど、物事にはさまざまな面があるのだと教えられたのでした。しかし、こうした経験を通して、「必要は発明の母」という言葉通りに、課題の発見がイノベーションの力の源となり、技術の進化が図られるのだろうと思います。
日本のメディアでは、中国が掲げる目標の実現は容易ではない、頓挫するといった言説に出会うこともしばしばですが、フィンランドのシンクタンク、エネルギー・クリーン・エア研究センター(CREA)は「中国が地球温暖化をもたらすCO2排出量を2030年までにピークに到達させるという目標を達成する見込みとする専門家89人対象の調査結果を発表」し、「回答者の70%以上が目標の達成が可能と答え、2人はすでに排出量はピークに達しているとの見解を示した」というのです。(ロイター昨年11月21日)
このように中国における気候変動、生態環境保護の取り組みはたゆまず着々と進んでいて、いまや中国は世界の気候変動問題への取り組みを主導する位置に立ち始めていることが見えてきます。
こうした中国の取り組みについて知ることによって、日本の私たちも中国と共に、気候変動、地球温暖化にしっかりと立ち向かう努力をしなければと思うのでした。
木村知義
きむら ともよし
1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース・報道番組を担当し、中国・アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008年NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。
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