中国の周辺外交政策と今後のアジア
文=ジャーナリスト・木村知義
なんとも「きな臭い」動きが続くものだ、そんな思いが募る昨今のアジア・太平洋地域の情勢です。こうした問題意識から、今号では中国の周辺外交政策とアジアのこれからに目を向けて考えます。
まず、「きな臭い」動きとは何を指してそう言うのか、ここでは二つの事例に絞って挙げることにします。
深まる米・日・比の軍事連携
第一に、「対中包囲網を強化 日米比首脳会談へ」という見出しの記事を目にしたのは今年3月のことでした。米国政府は4月の岸田首相の訪米、バイデン大統領との首脳会談に合わせ、フィリピンのマルコス大統領も招いて3カ国の首脳会談を目指すという「前触れ」記事でした。「中国への抑止力強化に向けて3カ国の連携を深化させる狙い」だというのです。
2022年6月にフィリピンのマルコス大統領が就任後、日米両国政府は安全保障面でフィリピンとの連携強化を加速させてきました。日本は昨年4月、「同志国」の軍などへ防衛装備品を提供する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」制度を創設して、フィリピンを対象国の一つに指定しました。これは前年末に策定された「国家安全保障戦略」に基づいて創設したもので、「非軍事原則」を掲げてきた日本の国際協力の一大転換とされました。日本が、かねてから巡視船の供与などを通じてフィリピンの「海洋監視能力の向上」を支援してきたことは知られていましたが、昨年10月にルソン島南部の太平洋海域で行われた米・比合同軍事演習に日本の海上自衛隊が参加したのに続き、11月、岸田首相がフィリピンを訪問した際、OSA創設後初の案件として、フィリピン海軍に「沿岸監視レーダーシステム」を供与することになりました。あるメディアは「日比関係は新たなフェーズに入った」として、「東シナ海の安全保障は日米韓で対応するが、南シナ海は日米比が基軸になっていくだろう」と伝えました。
昨年夏のキャンプデービッドにおける米日韓3カ国首脳会談で「米日韓の安保連携は新たな高みに上った」とうたい上げ、事実上の「準3国同盟化」が進むこととつなぎ合わせると、中国の太平洋側をぐるりと弧を描くように「包囲」する「対中国抑止網」が着々と強化されているというわけです。フィリピンに置かれていたアジア・太平洋地域最大級のスービック米海軍基地が1992年に撤退を余儀なくされた米国が、30年余りを経て、この地域に日本を引き入れる形の新たな覇権の構図の下に戻ってきたというわけです。こうして見ると、「南中国海域」で中国とフィリピンの間に「緊張」が引き起こされる背景がくっきりと浮かび上がって見えてくるのです。
米・日・韓による世界の分断
もう一つ、見落とせない最近の事例です。今年3月、「未来世代のための民主主義」を旗印に、第3回「民主主義サミット」が韓国・ソウルで開催されたことです。「民主主義サミット」と言えば、米国のバイデン大統領が主導して2021年に第1回が開催されたことはよく知られています。「民主主義の刷新」「権威主義からの防衛」などを掲げ、招待国を選別、排除するとともに、一方で「台湾」を招くなど、発足当時からその在り方に疑義と批判を呼び起こした「政治イベント」でした。問題は、いま、なぜ、バイデン大統領はわざわざ韓国を舞台にこの「民主主義サミット」を開催する動きに出たのかです。
今回の「サミット」の開幕式に出席したブリンケン米国務長官は、「権威主義的で抑圧的な体制が民主主義を弱体化させようと科学技術を活用する中、技術が確実に民主主義的価値・規範の擁護のために用いられるよう努める必要がある」と語りました。そして今回もまた台湾のオードリー・タン氏もビデオメッセージを寄せました。人工知能(AI)はじめIT、デジタル技術という、いまや人類共通の大きな課題となっている問題を、わざわざ米国流の選別と分断を持ち込んだ場で考えようという実に矛盾したイベントであることは言うまでもありません。中国からは「覇権的地位を維持するため、米国は民主主義の問題を武器化・道具化し、意図的に陣営対立をつくり出している。現在の世界は民主主義の名の下に分断をつくり出すことを必要としておらず、各国はむつまじく付き合い、協力・ウインウインを実現するため、共に積極的に努力すべきである」(「人民網日本語版」3月22日)と強い批判が発せられました。
この二つの事例に限らず、「きな臭い」動きは挙げれば切りがないくらいありますが、アジア・太平洋地域において、物理的実体を伴う軍事的な連携という問題と、「価値観」というイデオロギーに関わる問題の両面にわたって、「中国抑止」の「包囲網」をつくろうとする米国の意図を象徴的に表す「動き」だという意味で挙げたものです。つまり、米中対立先鋭化の動きをますます深める米国が、一国覇権の衰退過程に入っている現在の世界情勢を前に、政治、外交、安全保障、産業、経済、科学技術、文化などあらゆる領域において、なんとしても「中国抑止」だけは譲ることができないという、かたくなな姿が、こうした「きな臭い」状況を引き起こしているというわけです。
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