中国の周辺外交政策と今後のアジア

2024-03-26 15:49:00

 

中国の周辺外交政策の展望 

こう考えを進めてきたとき、昨年10月に発表された「新時代における中国の周辺外交政策の展望」(以下「展望」)を思い起こすことになりました。 

これは、中国の周辺外交政策を全面的に詳述した初の文書とされるもので、「アジアの目下の情勢および今後のすう勢に対する評価と見方に基づいて、中国の周辺外交実践の成果、政策理念および目標を全面的に」論じ、「中国が平和的発展の道を堅持し、自身の発展によって周辺の発展を促進し、地域諸国と共に近代化のプロセスを推し進め、周辺運命共同体を共に築くこと、手を携えて平和安寧で、繁栄し美しく、友好的に共生する新時代のアジアのビジョンを描く」ことを表明した政策文書です(北京2023年1024日発新華社=中国通信、以下引用は同様)。 

 まず、アジアをどう位置付けているか、中国の認識の一端を引くと「近年世界経済の回復と成長をけん引する重要なエンジンであるアジアは、世界の経済成長への寄与率が50を超えている。アジアは全世界で最も活力と潜在力に富む地域であり、全世界の発展・繁栄の熱い土地であり続けるだろう。同時に、グローバルガバナンスは秩序を失い、冷戦思考が勢いを取り戻し、一国主義・保護主義・覇権主義が横行し、エネルギー、食料、金融、産業・サプライチェーン、気候変動など幾重ものリスクのアジアへの影響が日増しに際立っている。アジアは経済発展の不均衡や安全保障、ガバナンス問題が際立つなどの試練にも直面している」と述べています。そして「一部の国が地域軍事同盟の構築を急ぎ(中略)テロ、自然災害などの非伝統的安全保障の脅威がなお存在している」としたで、「アジアの将来を巡って、まったく異なる二つの主張と動きが見られる。一つは開かれた地域主義を堅持し、真の多国間主義を守る、そして発展優先を堅持し、互恵協力に力を尽くし、開放・包摂を堅持し、融合した発展を推し進め、和合・共生を実現するもの。もう一つは冷戦思考に逆戻りし、再び閉鎖的なブロックをつくり、価値観による線引きを進め、経済問題を政治化し、地域の安全保障を陣営化し、分断をあおり、対抗つくりだすもの」と解析、提起しています。冒頭に挙げた二つの事例を、まさに鋭く言い当てていると言えます。 

こうした基本認識の上に、中国が周辺諸国との関係でどのような成果を収めてきたかを「アジア諸国と共に平和共存5原則を提唱し、連帯・友情・協力のバンドン精神を広く発揚し、絶えず善隣友好と互恵協力の発展を後押ししてきた」と総括的に述べるとともに、「政治的相互信頼が絶えず強まった」「互恵・ウインウインの協力が深まった」「『一帯一路』が周辺に利益をもたらした」「地域協力が深まり充実した」「ホットスポット問題をうまく管理した」「リスク試練に強力に対応した」というつの視角から具体的に考察、詳述しています。ここで「バンドン精神」が挙げられていることに、中国の立ち位置がよく表れていると考えます。 

こうした考察のに「新時代の中国の周辺外交の理念・主張」が詳しく展開されるのですが、「親誠恵容」(親善・誠実・互恵・包摂)の理念を実践することにはじまり、いくつもの漢字四字熟語に理念、原則を凝縮して提示していることが目を引きます。 

さらに、「グローバルサウス」の団結と協力を促進し、発展途上国の共通利益を守り、発展途上国の代表性と発言力を高めることを表明した上に、米国との関係について触れて、「中米は相互尊重、平和共存、協力・ウインウインを基礎に、アジア太平洋で良い方向への相互作用を実現し、地域の安定・発展にプラスのエネルギーを与えるようにすべきだ」と促しています。さらに、「共同安保、総合安保、協力安保、持続可能な安保」という安全保障観を堅持し、「地域諸国と共に地域の平和安定を守る。冷戦思考を捨て、一国主義に反対し、ブロック政治と陣営対抗をやらない」ことを強調して「地域諸国と対抗でなく対話、同盟でなくパートナー、ゼロサムでなくウインウインという新型安全保障の道を歩む」と力説しています。 

まさしく、米国およびその同盟国日本、韓国をはじめとして、今私たちの周辺地域で進行している事態の「問題の在りか」を鋭くくとともに、米国のみならずこの地域に住む私たちに、どうあるべきかを提起していると言える論考となっています。 

アジアの世紀の新ビジョン 

これらの提起を基礎に「新時代『アジアの世紀』の新ビジョン」が語られます。「政治、経済貿易、安全保障、人・文化、世界的課題の大分野に焦点を当てて、理念面で共感し、発展を共に計画し、成果を分かち合い、安全保障を共に守り、責任を共に担う周辺運命共同体を構築することを願っている」と述べるとともに、アジアの発展への道を中国がどう考え、どう構想しているのかが詳細に語られます。また、瀾滄江メコン川流域経済発展ベルトが形成されつつあるという成功事例はじめ、東南アジア諸国連合(ASEAN中心の東アジア協力メカニズムや中日韓協力、中国中央アジアメカニズム、上海協力機構(SCO)、新興5カ国(BRICS諸国協力メカニズムにはじまり、広くアジア太平洋インド洋地域にわたる多様な国際機構・プラットフォームを挙げて協力メカニズムを深めていくビジョンを提起して周辺諸国そして世界に向けて力強いメッセージを発しています。 

一方、「世界は、1940年代のように、複数の紛争が一つの戦争へ統合されていく局面にあるのかもしれない」(米外交問題評議会「フォーリン・アフェアーズ・リポート」2024年№2)と実に深刻な論考を寄稿したのはアメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェローのハル・ブランズ氏です。言うまでもありませんが、中国への警戒、軍事的な備えを主張する立ち位置にある人物ですから、考えを同じくするものではありません。しかし、「この環境で、アジアの係争海域で軍事衝突が起きれば、別の恐ろしいシナリオが浮上する。東アジアでの戦争が他の地域ですでに進行している紛争と重なり合い、ユーラシアの三つの主要地域が一度に大規模な紛争で燃え上がれば、1940年代以来の状況が出現する危険がある」という「危機感」には耳を傾けるべき説得力があります米国自身の「立ち居振る舞い」への省察が欠けていることを除けばですが。  

「世界戦争の足音」と題されたこの論文を前にすると、ここで取り上げた「新時代における中国の周辺外交政策の展望」が一層重い意味を持ってくることを実感します。そして、アジアに身を置く日本の私たちはどう生きるのかということに突き当たります。今回読み込んだこの「展望」の神髄をどう共有し、共に手を携えてどう将来に向かうのかということが、われわれに問われているということです。冒頭に挙げた「きな臭い動き」に加担する日本であってはならないことは言うまでありません。現在の日中関係のありようを、一歩下がって冷厳に見据え、足下を謙虚、{きょしんたんかい}虚心坦懐に見つめ直す営みを忘れてはならないと、この「新時代における中国の周辺外交の展望」によって考えさせられるのでした。 

  

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