歴史をかがみに台湾問題の復習を

2024-05-31 16:31:00

文=ジャーナリスト・木村知義 

「ああ、また、復習の大切さを思い知らされた……」 

台湾地区の民主進歩党の頼清徳氏の「就任式」を伝える各メディアのニュースを前にして、ため息をつきながら抱いた感慨です。台湾問題と向き合う私たちの認識、問題意識について、改めて復習を迫られていることを痛感しました。 

復習に入る際に、まず、頼氏の立ち位置についてです。 

頼氏の「現状維持」とは 

頼氏の「就任式」を報じた日本のおおむねのメディアは、蔡英文時代の「現状維持」路線を引き継ぐと伝えました。しかし、「就任演説」の全文を読んでみると「1996年の今日、台湾で初めて民選による総統が誕生し、国際社会に中華民国台湾は主権独立国家であり……」と語り、「中国はまだ台湾に対する武力侵攻の可能性を断念していません。中国の提案を全面的に受け入れ、主権を放棄したとしても、中国の台湾併合のたくらみは消えることはないことを住民の皆さんは理解すべきです」と呼び掛けています。「台湾は主権独立国家」「中国の台湾併合のたくらみ」という言葉に頼氏の認識が端的に表れています。頼氏は「一つの中国」原則を受け入れない立ち位置にあるということです。 

昨年10月、年明けの「選挙」を前にして頼氏は『読売新聞』のインタビューに応えて、「中国は武力で威嚇し、『一つの中国』『92年コンセンサス』を台湾に無理矢理受け入れさせようとしている。野党候補者の1人は直接受け入れた。もう1人は和平協議を推進するという。これも『一つの中国』の基礎に立つものだ。また別の1人は、『両岸は一つの家族』と主張しており、10年前の両岸の貿易サービス協議を復活させようとしている。彼らは全て、直接、間接的に『一つの中国』原則を受け入れたが、台湾民意の主流ではない」と語り、「台湾独自の主権を堅持しながら防衛力を強化し、国際社会との連携も行う。そうして初めて台湾自身の安全を担保し、インド太平洋地域全体の平和と安定に寄与できる」と強調しています。 

さらに振り返ってみると、2010年から務めた台南市長時代、「台湾独立を主張する」と声高に語っていた頼氏は、その後17年に蔡英文氏の下で行政院院長に就任し、立法院で「私は独立工作者だ」と自身の立場を鮮明にしていたことで知られる存在でした。 

メディアが言う「現状維持」とは裏腹に、頼氏のよって立つ考え方、本質は一貫して変わっていないことを、まず、私たちは知っておく必要があります。 

曖昧さ許されない原則 

そこで、台湾を巡って語られる「一つの中国」原則についての復習です。「一つの中国」原則については、1972年秋の日中国交正常化に際して発せられた「日中共同声明」の重要性は言うまでもありませんが、それに先立つ、中国と米国の間で交わされた72年2月のいわゆる「上海コミュニケ」(ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明)に立ち戻って復習しておくことが肝要だと考えます。 

「双方は、米中両国間に長期にわたって存在してきた重大な紛争を検討した。中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊および軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、『一つの中国、一つの台湾』『一つの中国、二つの政府』『二つの中国」および『台湾独立』を作り上げることを目的とし、あるいは『台湾の地位は未確定である』と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側の全ての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論を唱えない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう」 

引用が長くなりましたが、ここに全てが尽くされていると言えます。台湾について考えるときの原点であり原則だと言うべきです。何があっても、一点の曖昧さも許されない、原則とは、そういうものだという認識が、今こそ重要になっていると痛感します。  

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