新中国誕生の歴史に立ち戻って
先月号では7月に開催された中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)について、「中国の新たな歴史を画することになった『三中全会』として位置付けられることになるだろう」と述べました。この稿の筆を執った後、華字2万2000字に及ぶ「改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する党中央の決定」の全文が公表されました。
「決定」を読んでみると、新たな歴史の長途へと歩みを進める中国の姿が見えてくるという思いを新たにしました。そして、日本のメディアの報じ方がいかにも浅薄で的外れだと痛感しました。なぜこんな捉え方になるのだろうかと考えさせられました。考えていくうち、少し衒学的な表現になりますが、「中国革命を生きる中国」という認識に欠ける、あるいは、そんな中国を認めたくないことが根底にあるのではないかというところに突き当たりました。
新中国・中華人民共和国の誕生という、中国の歴史のみならず世界史的にも大きな意義を持つ画期を重要な「通過点」とする中国革命について深めて考える営みが欠落すると、その後の中国の歩みについて理解できず、ましてや、新たな歴史段階の社会主義を目指す現在の中国について正しく認識ができないということになるのではないかと思い至りました。
そこで、あらためて新中国の誕生に立ち戻って中国を見つめ直してみようと考えました。
新中国誕生をどう報じたのか
今年10月1日、中華人民共和国誕生から75年の「国慶節」を迎えます。まさに「波乱万丈」というべき時を重ね、試行錯誤と挑戦の中に喜びも悲しみもあり、数々の試練を乗り越えて現在の中国の発展を実現してきた75年と言えるでしょう。
1949年10月1日前後の時代に立ち戻って目を凝らしてみます。
新中国誕生ということになれば、私たちにとっては、天安門楼上で毛沢東氏らが中華人民共和国成立を宣言する光景を撮った写真が思い浮かびます。しかし、当時の日本の新聞にはこの写真がまったく見当たりません。当時は日本メディアの北京特派員もいなければ、写真の電送装置もなかったわけで、それもまた「むべなるかな」と。しかし、はて、と思わざるを得ない紙面です。新中国誕生を報じる記事を探しながらまず気づくのは、10月1日から「新聞週間」が始まったことを受けて、各紙とも、マッカーサー元帥の新聞週間に寄せる声明を1面で大きなスペースを割いて扱っていることです。連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官マッカーサーが全てを握る占領下にある、当時の日本社会を象徴していると言えます。
そこで新中国誕生の記事です。10月1日付の『朝日新聞』は1面左下に「きょうから成立祝賀/中華人民共和國政府」(/は行替え)という小さな2行の見出しで「北平二十九日発新華社=共同」のクレジットを含めわずか6行半。2日付の紙面では「主席に毛沢東氏中華人民共和国成立」と1面でこれも小さく報じましたが、扱いの小さいことが際立つものでした。それよりも9月22日の1面、トップ記事の左に「中華人民共和国の成立/毛主席、政協会議で宣言」として「解説」を含め8段の長文記事が掲載されていて、9月21日から始まった中国人民政治協商会議第1回全体会議に注目していたことが伝わってきます。また、5日掲載の社説で「二つの中国」と題して「中華人民共和国と国民政府のいずれを承認するかは第二次世界大戦後における最も大きな問題の一つになろう」と、新中国の誕生が日本の選択にとって重要な要因となることを指摘しています。
目を引くのは『毎日新聞』です。1日の1面左下に、「ソ連へ参加を表明/中華人民共和国きょう正式宣言」(原文ママ)として「北京からの新華社電によれば、政治協商会議は廿九日の全体会議で中華人民共和国の根本方針を含めた共同綱領を可決。これにより政治協商会議組織法、中華人民政府組織法と合わせて三つの基本法はことごとく決定したわけである。丗日の政協会議では政府委員主席、副主席をはじめ政務院総理などの重要人事が決定され、ここに中国歴史の大転換を意味する中華人民共和国中央人民政府は十月一日を期して正式に成立を宣言されるものと予想される(共同)」という記事を載せるとともに「解説」で「政府委員会に絶対権」と小見出しを入れて「新中国は三基本法によって世界に類例のない国家組織をもつことになったが主要な特徴は次の点にある」として詳細に伝えています。中でも「共同綱領」については「これは国家の基本法であるが、それと同時に革命の現段階でなすべきこと、また何をなすことが出来るかを規定しており『革命戦略』とみることが出来る。その総綱では人民民主専政をうたい帝国主義の在華特権の取り消し、官僚資本の接収、封建的土地所有制度の改革を規定している。いずれもすでに毛沢東氏の『連合政府論』『人民民主専政論』(原文ママ)などに示された中共の『戦略』が明らかにされたといいうる」と書いています。また、「政協会議の性格は中共のいわゆる民主諸勢力の政治的組織である。従ってこの政協会議は中共の指導理念たる新民主主義の実現を推進する基盤の役割を果し、それと同時に社会主義への発展をめざして『人民』を訓練する組織体であるといえる」としています。
全体としては、冷戦下という国際情勢を色濃く反映した紙面構成となっていることは否定できませんが、「起きていること」を事実に基づいて捉えようとする努力のうかがえる記事になっていると感じます。20世紀における世界史的意義を持つ新中国の誕生をメディアがどう伝えたのかをつぶさに見ることで、中国における革命が日本においてどのような問題意識で受けとめられたのかを垣間見ることになり、同時に、中国を伝えるメディアの在り方についても考えさせられることになりました。
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