「変わる世界」と中国を見つめて

2025-05-07 09:37:00

文=ジャーナリスト・木村知義 

3月号で「トランプ第2期政権と『関税』」をテーマに論じました。その後「トランプの米国」の迷走が世界に大きな災厄をもたらしている中で、毅然として「理」を説いてトランプ氏と対峙する中国の姿を見つめながら、さらに考察を深める必要を痛感しました。今号では、この間の世界の「大変局」を見据え、考察の一端を述べてみます。 

一変した世界の「風景」 

世界がすっかり変わった! 

米国のトランプ大統領の「関税」を巡る迷走を前にしての感慨です。 

本欄はもちろん、寄稿の機会を与えられた『人民中国』への論考で、一体何度、「変わる世界」と述べたでしょうか。さらに、機会あるごとに「新たな世界秩序への過渡期を生きるわれわれ」という時代観、世界認識を語ってきましたが、これほどまで劇的に地に堕ちた米国の姿を目の当たりにするとは、驚きを禁じません。トランプ氏がホワイトハウス・ローズガーデンで関税率を記したボードを掲げながら世界各国に「相互関税」をかけると語り「米国にとって解放の日」と自賛してわずかひと月で、欧州、ASEAN諸国はじめグローバルサウス各国、さらに「トランプの米国」への追従著しかった日本までも、トランプ氏の関税を巡る「立ち居振る舞い」に対する視線は厳しいものへと大きく様変わりしました。欧米、日本のメディアの論調もトランプ氏およびその下にある米国のありように対して批判を強め、潮目が変わったと感じます。経済メディアには、戦後世界の米国一国覇権の土台となってきたブレトンウッズ体制の「{しゅう えん}終焉」に触れる論調まで出始めました。 

振り返れば、会見で誇らしく「相互関税」について語った、その舌の根も乾かぬ13時間後、トランプ氏は、中国を除く国々に対しては相互関税の適用を90日間停止すると発表。その後、世界を翻弄するばかりの迷走に次ぐ迷走を重ねました。そして、繰り返し「中国との協議」について言及する動きに出ました。そこでの「中国が協議を求めている」「協議を必要としているのは米国ではなく中国だ」という「論理」の破綻は、米国のみならず世界のメディアが認めざるを得ないもので、トランプ氏の側が「白旗」を掲げた状況となりました。 

理非曲直を揺るがせにしない 

日本の5月の大型連休前後、米欧メディアで中米の協議に関わる報道が相次ぎました。ブルームバーグは「米中に雪解けの兆し、通商協議始動へ期待高まる-進展にはなお障害」という記事を配信しました(5月3日)。そして5月10・11日の2日間にわたってスイス・ジュネーブで中米貿易協議がおこなわれ「追加関税の一部を90日間停止することで合意」するとともに、中米両国で「経済貿易関係に関する交渉を継続するためのメカニズムを構築する」ことになりました。もちろんこれで「トランプ関税問題」が根本的に解決したわけではありません。 

そこで、中国が一貫して掲げてきた原則的立場とはどういうものだったかを、復習しておくことが大事になります。 

「中国側はかねてから、関税戦争と貿易戦争に勝者はなく、保護主義に活路はなく、『デカップリングやサプライチェーンの分断』は自身を孤立させるだけだと指摘してきた。米国が仕掛けた関税戦争について、中国の立場は明確であり、中国は戦いたくはないが、戦うことを恐れてもいない。もし米国が関税戦争に固執するのであれば、最後まで付き合うし、交渉するのであれば、扉を大きく開く。もし米側が本当に対話交渉を通じて問題を解決したいならば、脅迫と恐喝をやめ、平等、尊重、互恵をベースに中国と対話すべきだ。中国と交渉すると言いながら圧力をかけ続けるのは、中国と付き合う正しい方法ではなく、通用しない」(外交部定例記者会見、郭嘉昆報道官4月23日)ということに尽きます。 

加えて忘れてならないのは、王毅外相・中国共産党中央政治局委員が英国のラミー外相との電話会談で「米国による関税措置に対して中国が『立ち上がった』のは、自国の利益を守るためだけでなく、国際秩序と多国間貿易システムを守るためでもあった」と述べたことです(ブルームバーグ4月22日)。 

あくまでも{り ひ きょく ちょく}理非曲直を揺るがせにせず、原則を貫く中国の姿勢が、グローバルサウスはじめ世界各国の共感を呼び起こし、世界を大きく変えるうねりを生み出しているというわけです。 

世界に災厄をもたらすトランプ関税 

そこで、自ら「タリフマン」(関税男)と自称するトランプ氏の「関税」が世界にとってどれほどの災厄を及ぼしているのか、国際通貨基金(IMF)による世界経済見通しを見ておきます。IMF4月22日今年の世界の成長率見通しを前回月時点の予測から0・5ポイント下げて2・8%としました。トランプ政権の高関税政策の影響で全ての国・地域が下方修正されました。よりも米国は1月時点の予測から0・9ポイント減速し、1・8%にとどまる見通しとされ、米国自身への打撃の深刻さが際立つものとなりました一方、米国から145%の追加関税をかけられた中国は同0・6ポイント減の4・0%成長にとどまりそうだとしました。トランプ氏自身が持ち上げた石で己の足を打つということになったわけですが、米国が標的とする中国にとっても深刻な影響があるという見立てとなっています。この世界経済の著しい減速予測に「対抗措置の応酬は加味されておらず、下げ幅はさらに大きくなる可能性があるとIMFは警鐘を鳴らしています。 

一方、世界に目を巡らせてみると言葉を失うばかりの不条理が見えてきます。伝えたのはドイツのテレビ局ZDFです。 

「トランプ大統領は誰もレソトなどという国は知らないと嘲笑しましたがレソトほど米国の関税政策の影響を受けている国はありません」と語り始めたそのニュースでは、トランプ氏がアフリカ南部の人口わずか230万人の小さく貧しい国レソトに50%という高い関税をかけようとしているとして、レソトにあるジーンズ工場を取材したレポートを伝えました。毎日3万本のジーンズを生産しているその工場では80%は米国の有名なジーンズメーカーからの注文で、全て米国に輸出されています。繊維産業はレソトの経済のおよそ20%を占め、数万人を雇用しているというのです。工場で働く女性は「毎月135ユーロ(日本円で2万1000円余り)ほどの収入で自分の家族両親義理の両親を養っていますトランプ大統領の関税は私たちの仕事にとって死刑判決に等しく生活が崩壊します」と悲痛な表情で語りました。昨年、レソトは主に衣料品を含む3700万㌦相当の商品を米国に輸出しましたが、輸入は280万㌦でした。「トランプ大統領はレソトがもっと米国の製品を買うことを求めていますが米国製の高価なものを買えるような人はここにはほとんどいない。トランプ大統領がかけると脅している関税はレソトにとっては悪夢だ」と現地からのレポートは伝えました。 

レソトの一例を見ても、世界の誰もが、トランプ氏のやろうとしていることはなんとひどく、愚かなことかと思うでしょう。中国は「経済発展や経済力に不均衡がある状況下において、米国の追加関税政策は各国間の貧富の格差を一層拡大させ、低開発国がより大きな打撃を被ることになる」と指摘し、「米国による関税の乱発は、各国、特にグローバルサウス諸国から発展の権利を剥奪するに等しい」と厳しく指弾してきました。また「米国が関税をツール化、武器化し、いじめや脅迫をしていることが一層露見するだけだ」とも指摘しています。 

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