「変わる世界」と中国を見つめて

2025-05-07 09:37:00

「支離滅裂」な関税政策 

さらに、「関税」でトランプ氏の言う「貿易収支ゼロ化」を目指すことがはらむ「誤謬」を知っておく必要があります。米外交問題評議会が発行する「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(日本版)4月号は冒頭に「支離滅裂な関税政策」という論稿を掲げました。ピーターソン国際経済研究所シニアフェローのチャド・P・ボウン、ダートマス大学経済学教授ダグラス・A・アーウィン両氏による共同論文です。副題に「壊滅的な間違い」とあるこの論考では、「関税で何でも解決できるとトランプは考えているようだ。しかし、関税が、彼が懸念する課題に対処するための最善の策であることはほとんどない。トランプ政権が指摘する米経済の問題の多くは、国内に病巣がある。貿易相手国を叩きのめしても、こうした根本的な問題の解決につながらないばかりか、米経済に害を及ぼすだけでなく、外国からの恨みや報復を助長し、被害を拡大させるだけだ。トランプ政権がその脅しを実行に移せば、その影響は、トランプが言う『小さな混乱』よりもはるかに破壊的なものになるだろう」と述べています。「国内に病巣がある」という指摘は、トランプ氏やその側近たちにとって「知りたくない真実」だとしても、その重さを知っておくべきだと考えます。 

また、同じ「フォーリン・アフェアーズ・リポート」5月号には、米ピーターソン国際経済研究所所長のアダム・S・ポーゼン氏が「米中貿易戦争の悪夢―アメリカの勝利はあり得ない」を寄稿し、「トランプ政権は経済版ベトナム戦争を始めようとしている。自ら選んだ戦争は程なく泥沼化し、アメリカの信頼性と能力に対する国内外の信頼は損なわれるだろう。その帰結がどうなるかは、誰もが知っている」と述べました。 

もはや関税率の数字がどうなるかという次元の問題ではなく、まさしく、事の本質的条理、理非曲直をこそ知らなければならないのです。グローバルサウスをはじめ非米世界の人々はすでに事の本質に気いています。中国財政部が声明で「米国が関税を引き上げても経済的には意味がなく、世界経済の歴史のなかで笑いものになるだけだ」と指摘し、「今後米国が数値の駆け引きを続けても中国は反応しない」とした道理がかるというものです。 

「終わりの始まり」?! 

こうした推移の中で、意味深長な「ひと言」に出会いました。「(トランプ政治の)終わりの始まり」というのです。2016年の大統領選挙においてトランプ勝利を主張し、昨年の大統領選挙に際しても一貫してトランプ氏の返り咲きを予言してきた国際ジャーナリストのテレビの報道番組における発言です。「終わりの始まり」とは実に言い得て妙というべきで、事態を鋭く衝いた言及です。トランプ氏が、いわば「パンドラの箱」を開いたことで、米国が世界の人々の信頼を失い、一国覇権によって立つ構造を自らの手でさらに突き崩す回路に陥ったというわけです。 

今回の「トランプ関税」問題を契機として、中国をはじめEU、ASEAN、BRICS諸国、ユーラシア、南米・カリブ、アフリカ諸国など、世界は多元、「多極」化していくこと、グローバルサウスをはじめとする非米世界の国々、人々は共に手を携えて自らの行く道を自らの手で開いていく時代へと歩みをさらに速めることになったと感じます。多国間関係を大事にして、新たな世界のありようを切りいていく努力が一層大事な時代になってきたという思いを強くします。 

日本の私たちについて言えば、米国との関税交渉の「一番手」に位置付けられたなどと言っている場合ではないでしょう。「トランプの米国」に対する本質的な批判力を持たなければ日本に道は開けないのです。さらに、日米同盟基軸が全てという「生き方」から脱却することを迫られる時代になっていると言うべきです。経済にとどまらず、今ほど日中関係を深め、発展させるための構想力と実効ある取り組みが重要な時はないと言えます。そのために、なぜ日中関係が大事なのか、その答えを、私たち一人一人が考え、深め、自らの言葉で語り、ささやかではあっても、それを実現していく営みを重ねることが一層大切になっていると考えます。 

世界の「風景」が大きく変わるこの時代に、私たち日本および日本人が、これから中国・アジアそして世界の人々とどう共に生きていくのかが一層鋭く問われ、試されることになりました。 

木村知義 (きむら ともよし)   

1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース・報道番組を担当し、中国・アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008年NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。  

人民中国インターネット版 

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