日中韓3カ国外相会議と中国の近隣外交
文= ジャーナリスト·木村知義
難しい「問題」があるとき、実際に顔を合わせて意見を交わすことの大切さをまた改めて知ることになりました。同時に、相対する2国間とは違って3カ国、なかでも日本、韓国両国は米国と同盟関係にあるという条件の下での、多国間外交の難しさについても考えさせられました。本稿では、3月に東京で行われた日中韓3カ国外相会議に何を見たのか、そこでの触発の一端について述べてみます。
日中韓3カ国外相会議とは
まず、今回の3カ国外相会議の輪郭を整理しておきましょう。
日中韓外相会議は、今では、3カ国の協力と地域情勢について議論する重要な枠組みとなっていますが、この枠組みは、1997年に始まった「東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)」から派生、誕生したものです。この年は「アジア通貨危機」が起きて経済再生がアジア各国にとって喫緊の共通課題となりました。その後、99年、ASEAN首脳会議の場を活用して、日中韓の首脳が朝食会の形式で会合を持つことになります。日本の小渕恵三首相、中国は朱鎔基総理、韓国の金大中大統領の3人が、通商、金融など経済問題を中心に意見を交わしました。そして、2008年に初めての「日中韓首脳会議(サミット)」を日本で開催、貿易、投資や環境問題、朝鮮半島をはじめ東アジアの地域情勢を踏まえた外交・安全保障の課題も含め幅広く話し合うことが定着しました。つまり、3カ国の枠組みは、経済から安全保障、さらに共通する社会の課題などで相互の協力関係をどう発展させるのかという問題意識の広がりの中で積み重ねられてきたと言えます。そこで、外相会議は「首脳会議」のいわば「地ならし」をするものとして年1回持ち回りで開くのを原則としてきましたが、3カ国の関係が必ずしも良いとは言えない状況やコロナパンデミックで開催を見送らざるを得ない時期もありました。外相会議は一昨年、23年11月に4年ぶりに開催、首脳会議は昨年5月に4年半ぶりに開催して現在に至っています。
今回の外相会議は、日本で開催を目指す日中韓首脳会議に向けて「道筋」を確かなものにする意味も込められていました。すなわち、首脳会議を機に中国から李強総理の来日を実現し、その後の日中の首脳往来へとつなげることを目指す会合として大事な位置づけを帯びたものでした。
「2対1」の構図を越えて
しかし、すぐに気付くことですが、日本と韓国は米国との間で「同盟」関係にあり、一方で、経済においてはそれぞれが中国と密接な関係にあるという、矛盾をはらむ環境の中で3カ国の協力関係を模索する「難しさ」と向き合いながら重ねられてきたというわけです。つまり、何も努力をしなければ、「2対1」(米国との同盟関係にある日韓対中国)という緊張の構図に陥ってしまう条件の下で、どのようにして「良き三角関係」を生み出し、どう問題を乗り越えていくのかという「課題」を宿命付けられている枠組みだと言えるのです。
そこで、出発点から視野の中心に据えられてきた経済についてです。日中韓の貿易の相互依存の現状について、日本の経済メディアの報じるデータによって見ておくと、昨年時点で、日本と韓国にとって中国はそれぞれの貿易総額の20%余りを占める最大の貿易相手国です。一方中国から見ると、日本や韓国の中国への依存度とは相対的に下がるものの、日本は2位、韓国は3位の貿易相手国となっています。さらに日中韓の3カ国で世界の国内総生産(GDP)の2割超を占めるという存在の大きさも忘れてはならないでしょう。
よって、日中韓はさまざまな相克や矛盾を抱えつつも、アジアと世界の平和と発展にとって重要な位置付けとなることが見えてきます。また、朝鮮半島における韓国と朝鮮の関係はじめ、緊張を拭えない地域情勢、安全保障環境の中で、いかに平和と協力関係を創っていくのかという重い課題と向き合いながら私たちの知恵と構想力が問われ、それに基づく努力が試される状況にあると言えます。
大きく俯瞰して言えば、この3カ国の枠組みには、欧州における「冷戦終焉」後(現在、欧州は厳しく緊張をはらむ複雑な安全保障環境に変容していますが)、依然として冷戦構造をそのままに色濃く残す東アジアにおける多国間関係に基づく平和構築という、世界史的な重い課題が課せられていると言えるのです。この認識に立って、今回の外相会議をさらに吟味、考察してみます。
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