座談会 トランプ2・0と中日韓協力
東京支局=構成・編集
第2期トランプ政権(トランプ2・0)は発足後間もなく相互関税政策を推進し、世界経済に深刻な打撃を与えている。今年3月に日本で開催された中日韓外相会議で3カ国は中日韓協力および地域と国際問題について踏み込んだ意見を交わし、第10回中日韓首脳会議の開催へと一歩を踏み出した。トランプ2・0は中日韓共通のリスクと喫緊の課題である一方、歴史問題などの未解決課題は、依然協力深化と共同での課題対応における障壁となっている。
世界反ファシズム戦争勝利80周年を迎える今、中日韓はどのようにして歴史問題などの課題を適切に処理し、政治・経済・文化などの面で協力を一層深めるべきか。自由貿易で利害が高度に一致する3カ国は、トランプ2・0の「恫喝関税」にどう対応すべきか。東京支局は座談会を設け、各専門分野から見た問題点とその解決策について識者に語ってもらった。
「地域主義」の再構築を
木村知義 一つ目のテーマは、トランプ2・0発足後のいわゆる「相互関税」の問題です。中国と米国は5月10日と11日にスイスのジュネーブで協議を行い、関税率の大幅引き下げ、追加関税の一部の90日間停止、経済貿易関係交渉協議のメカニズム構築という3点について合意しました。この電撃的とも言える合意は世界に大きな衝撃を与えましたが、まずは全体を俯瞰したご意見をお聞かせください。
田代秀敏 トランプ政権と中国とのジュネーブでの合意が衝撃的だったのは、大幅な妥協の上に、実質的に中国側が寄り切ってしまったからです。実は会談直前の4月にIMF(国際通貨基金)・世界銀行の年次総会がワシントンで開かれた際に、ベッセント米財務長官と中国の高官がIMFの地下室で秘密会合を行っていたということを、フィナンシャル・タイムズがスクープしています。その時期は、日本から赤澤亮正大臣がホワイトハウスに行き、MAGAキャップをかぶって満面の笑顔で答えた1週間前のことでした。先日赤澤大臣がワシントンに行った時には、ベッセント長官は会ってくれませんでした。日本と協議する意味がないので会う必要がないと判断したからです。中国との交渉への注力が見て取れます。
「トランプ関税」で収拾がつかなくなったのは、米国経済の方です。ウォルマートなど米国の三大スーパーマーケットチェーンのCEOがホワイトハウスに乗り込んで、このままいくと1カ月後には棚から何もなくなってしまうと直訴しました。米国の低・中所得層を相手にしているスーパーマーケットで、売られているもののほとんどがメード・イン・チャイナなのだそうです。実はトランプを熱心に支持している、高校卒業(なかには中退)程度の学歴の白色人種で、仕事がなくブラブラしているような層にとって頼みの綱であるウォルマートから商品が消えてしまうと支持率に影響しますから、焦ってあのような妥結になってしまったのです。米国側が大きい関税率を維持しているように見えますが、実は出発点から完全に押し切られたのです。米国経済は着実に痛み切っています。
それを象徴しているのは金融市場です。現在米ドルは非常に弱含みしています。米国株もどんどん値崩れしています。米国債までが値崩れしているのです。保有状況からも、米国の金融機関が売っているのが分かります。でなければ、あれほどの値動きは起きません。米国経済のプロフェッショナルたちが、米国経済の将来を見限っているということです。
注目すべきは、この状態がどこまで保つかでしょう。米国が熱狂的に自滅していくというのは、実に恐ろしいことです。あんな巨大な帝国が崩壊するなど、世界史上でも未曽有の大変動となります。各国が今いかに米国の自爆テロに巻き込まれず生き残り、なおかつ共存共栄していくかということを真剣に考えなければいけない時がやってきました。
熊達雲 トランプが中国に非常に高い関税という極限の圧力をかけてきたことについて、中国の国民はトランプ1・0を見てきただけに大した驚きはなかろうかと私は見ています。屈しない中国に対し、トランプはさらに関税の比率を引き上げることで中国を圧制しようという企みのようですが、品質が良く値段が安いものを中国から輸入しなければ、米国もいずれ困るであろうと中国は観測しており、時機の到来を待っているわけです。
今回は米国が関税を引き下げ、中国との合意に達しました。これは、互いに一歩引き下がることで互いに納得できる効果を得ることができればよし、という考えでしょう。中国は米国が中国を必要としていることを知っていますし、中国もまた米国をある面では必要としています。おそらく対米関係については中国政府も国民ももっと大きな目で見ていて、関係を維持していく方が両国にとっても、世界にとっても良いと考えていると思います。
郭洋春 今回の「トランプ関税」について、日中韓の対応はそれぞれ異なっています。違う理由は対米認識です。対米外交がそのまま関税交渉に直結していると私は見ています。
中国は米国に対して基本的には対等な立場という姿勢だと思います。一回会って合意しましたが、そこに至る過程はまさにチキンレースのように、米国が関税を上げれば同じ日に中国も上げ、米国がまた上げれば中国もまた上げるという繰り返しで、結局145%まで上がってしまいました。強い態度で臨む中国に対し、米国が譲歩せざるを得ないということで、今回の合意に至ったと思います。中国の対米外交の強気が関税交渉にも現れていると言えるでしょう。
韓国は朝鮮との関係があるので、駐韓米軍も含めて米国には非常に大きく依存をしています。韓国に対しては4月2日に米国で大統領令が出ましたが、直後の4日には韓国のサムスン電子が米テキサス州で現在建設中の半導体工場に、440億㌦という従来の計画の2倍以上の追加投資を行う発表をしました。同日にSKハイニックスも同社として初めて米国工場を建設するとしました。つまり「関税引き上げが嫌なら米国に投資せよ」という米国の意図をうまくくみ取って乗っていくという姿勢が、韓国の米国に追随する外交と重なります。
日本は唯一例外として扱ってほしいという思いが見えます。しかし4回も交渉しながら全くまとまっていません。トランプ政権の狙い通りにどんどん譲歩していく道を歩んでおり、対米一辺外交の在り方がそのままこの関税交渉に現れています。トランプ政権が電話で戦闘機F47の購入を日本政府に求めたという記事が日経新聞に載っていましたが、ここでは関税の話は一言も出ていません。交渉を繰り返せば繰り返すほど、どんどん米国へのお土産の中身が増えてしまう状況に陥るのです。
世界から見た米国に対する日中韓の対応は、中国くらいの強気の姿勢で臨むと米国も譲歩するのだという好例を作ったと思います。韓国のように最初から大した交渉もしないで投資しますというやり方や、日本のように自分だけ例外にしてどこかで落としどころを考えてくれませんかというような卑屈にも見える外交は、世界からは果たしてどのように見えるでしょうか。
富坂聰 すでに皆さんからかなり意見が出ていますが、まだ出ていない視点として、今回は欧州が重点的にターゲットになっていることを挙げたいと思います。これは非常に驚くべきことです。過小評価できないと思うのは、2月14日に開催された第61回ミュンヘン安全保障会議においてヴァンス副大統領が欧州に対して厳しいことを言って帰ってきたことです。このときによく言われたのが「価値から価格への変化」です。安全保障という値札が貼れないものには関心がないということです。
この変化の中でさらに見ていかなければいけないのは、今までの日本の「中国と戦っている米国の味方をしますよ」というスタンス、つまり中国を敵視することで稼げていた点数が、もう稼げなくなってしまったということです。この変化をどう捉えていくかが肝心です。
こうした変化と同時に米国では国内問題も起こっています。米国の中部辺りに住んでいた人のうち、一部の優秀な人材は沿海部に流れていって、取り残された人たちが案外票を持っているということです。今回私が非常に面白いと思ったのは、米国のメディアが一斉に「トランプ関税」を批判するような報道の中、トランプ支持者にマイクを向けたところ、「トランプのおかげで関税に不平等があったということを初めて知った。やはりトランプは私の味方だ」と言ったことです。国際市場がおかしくなっているのに、まだこういうことを言う人もいるのです。トランプ支持者たちの認識と世界のズレが、どこかで調整されなければいけないと感じました。この米国内の対立と安全保障における変化の2点は実に致命的で、どこかでこのトランプ支持者たちを納得させる必要があるフェーズに入ってきていると思っています。
白鳥浩 今回の米中摩擦は、中国の毅然とした態度がトランプを動かした部分があると私は見ています。それに対し、日本も韓国もトランプに対していささかおもねっているところがありますね。法の支配ということを考えれば、トランプのやり方はかなり問題があると言わざるを得ません。「法の支配」から「力の支配」へと変えようとしているこの米国のスタンスを、日韓は認めてはいけないと思います。
これまでの国際社会のルールは、基本的に自由貿易主義を認めていくということであったのに対し、トランプのやり方は保護貿易主義で、時代としては100年ぐらい前の話をしているわけです。
本日のこの議論の中で考えなければいけないのは、一国主義をどう乗り越えていくかだと思います。トランプはこの冷戦構造の中における一国主義から、やはりどうしても抜け切れていないのです。中国は「一帯一路」を、日本はCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)を持っており、一国から地域へと目線を変えつつあるのが現状です。これはもちろん欧州も同様ですが、東アジアにおける地域主義を、自由貿易を中心として再構築していくという意味で、中国の対応は非常に意味があったのではないかと私は考えます。これからは自由貿易の地域的な発展を日中韓3カ国が中心になって目指していく、そんな試みが必要であろうと思います。
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