座談会 トランプ2・0と中日韓協力
「文化共同体」を目指すためには
木村 最後に3カ国の文化交流、つまり文化というものをどう力にしていくかということについてお話しいただきたいと思います。
白鳥 ソフトパワー、つまり文化の力を、われわれはもっと重視しなければいけないだろうと思っています。中国や韓国に行くと、孔子の教えがいかに根強いかを実感することができます。韓国では目上の人とお酒などを飲む時に口元を隠して飲みますし、中国にも日本同様お年寄りをいたわるシルバーシートがあります。
もちろん最近のK―POPや日本のアニメ、中国のゲームやアニメももちろん重要です。ただ、それをただ遠くから眺めているだけではなく、欧州のエラスムス・プラス(教育・研究・訓練・青少年・スポーツを対象にしたEUのプログラム)のように日中韓を中心として学生同士を交流させ、さらにはアジアや「一帯一路」、CPTPP加盟国を入れたような留学プログラムを今後は作っていくべきでしょう。それを中国で行うべきではないか、と私は思っています。
田代 若い世代になればなるほど、日本の優れた文化に対する評価は無条件に高いです。例えばこうした座談会にアジアで国を超えて評価されているアーティストや実業家を呼ぶと良いと思います。識者ばかりを集めるより、中国やアジアの若い人たちや若手経営者にも日本語が上手な方がたくさんいますので、そういう人たちを呼んだ方が未来の可能性を探れると思います。私の知っている中では、岩井俊二監督の映画を何百回も見て、そこから日本語を学んだので、良いセリフは全部言えるという中国の青年がいます。そういう人たちをこうした座談会やシンポジウムのメンバーに入れるのは、とても有意義だと思うのです。こうした試みは、自滅していく米国に引きずり込まれてアジアが被害を被らないようにするための重要な防波堤になると思います。
富坂 田代さんのおっしゃる通りで、場合によっては過大評価されているんじゃと思うくらい、今は日本のさまざまなものが中国にあって逆に驚いてしまうのですが、それが素直に日本に伝わらないですね。全部同じところに落とし込んでいくようで嫌なのですが、例えば『キングダム』という中国の古代史を舞台にした漫画や『三国志』は面白いと思っても、「それと今の中国は別ですよね?」という理解をしようとする。メディアから洪水のように出てくる負のイメージ作りの影響です。
しかし若い人を見ていると、サブカルチャーとガジェットが、すごく大きなアイテムとして影響を与えています。米国はソフトパワーを強く意識してやってきた国ですから、例えばファーウェイなどを使わせない。ファーウェイは相当かっこいいガジェットなのですが、日本でもなかなか手に入りません。上手にシャットアウトしているのです。
実は私は中国ドラマが大好きで、例えば最近は『人世間』(A Lifelong Journey)という中国国内の賞を総なめした全58話のドラマなどは本当にすごくて、私はすぐにでも日本語字幕をつけてみんなに見てもらいたいと思っています。1960年代後半から2012年くらいまでの中国がばっちり描かれているので、下手なノンフィクションや新聞など読まなくていいから、この作品だけ見てほしい、そう思うほどのレベルとクオリティーです。しかし残念ながら日本語では見られないので、日本人とこのドラマの話ができないのです。
これについては、中国もちょっと戦略を考えるべきです。例えば政治問題を見聞きして、その中国の言い分が正しいからと中国に興味を持ち、中国に対する理解を深めることが期待できるとは思えません。むしろ感動的な中国映画と出会い、こんな作品が作れる国なのだということを入り口とするケースが圧倒的に多いはずです。こうしたソフトの力を、政治色を出さずにいかに上手に見せていくのかが、今後の中国の課題ではないでしょうか。
熊 確かに中国は国情もあっていささか堅い部分があります。特にこのソフトパワーは、改善すべき点が多々あります。どの国の人も同じ人間ですから共通の部分があり、同じように感動できる物語はたくさんあります。外国に中国のものを広めて中国のイメージを高めていくというような発想がないわけではありませんが、中国ドラマの良作や人を感動させるような中国の物語を世界の人々に知ってもらわなければ、その魅力は国内に留まってしまいます。優れたコンテンツの積極的な発信という点については、改善の余地があると思います。
世界の未来は若者にあると言われるように、中日両国の友好と平和を発展させていくためには未来に希望を寄せなければなりません。若者の相互理解を深める必要がありますし、相手国を客観的に見つめ、どのように付き合っていくべきかを考えてもらうことは、非常に重要だと思います。ですから高校生以上の若者の交流を社会も後押しするべきでしょう。しかし日本政府の日本の若者へのアプローチを見ていると、中国行きを促すというよりむしろ邪魔しているようにも感じられます。
現在の中国と日本の若者交流は、ほぼ一方的に中国が輸出側だと思います。日本は輸入側であり、受け入れ先もたくさんあります。中国人留学生はすでに数十万人にのぼりますし、観光客も今年4月には79万人で最も多く、韓国は2番目だったと思います。日本に来た中国人の印象は、国民が文明的で生活環境も整備されて清潔だというものが多く、みな口を揃えて日本をたたえています。一方、中国にも日本にない素晴らしいものがあるはずなので、中日を比較して参考になるようなところも多々あると私は感じています。従って、日本の方々にはもっと中国に来て、実際の中国を見ていただきたい。そうすればメディアの報道とは違う中国が見えてきて、相互理解も深まっていくのではないかと思います。
郭 日本文化が初めて世界に浸透したのは1970年代のことで、当時は日本の経済力の拡張に伴って日本の家電の素晴らしさが世界に広まり、日本という国をもっと知りたいと思った人々によって文化も広まっていくという流れがありました。そして80年代に入るとNHKで放映された『おしん』が世界中で放映され、視聴率が90%を記録した国もありました。こうした状況をジャパナイゼーションと呼ぶ人もいました。
それが停滞した後に韓国がなぜ韓流ブームを作ったかというと、1997年のアジア通貨危機がきっかけでした。当時の韓国はIMFから莫大な融資を受けました。それまでやってきた電気製品の輸出だけではもはやもたないという状況にまで追い込まれたためです。97年12月にはちょうど大統領選挙があって翌年には金大中が就任しましたが、韓国がアジア通貨危機、経済危機を乗り越えるためには、従来型の貿易だけをやっていてはダメだと、彼は自らを「文化大統領」だと宣言したのです。文化を輸出していこうということで、政府を挙げて文化産業やエンターテインメント産業に注力しました。それがかなり浸透した結果、いわゆる韓流ブームというものが出来上がったのです。
韓国を前例として語るのであれば、日本にせよ今の中国にせよ、自国の文化を一産業に任せるのではなく、どれだけ本気になって相手国に知ってもらう努力ができるかだろうと思います。それを新たな成長戦略として位置付けた韓国を、日本も中国ももっとまねしても良いのではないかと私は見ています。
私は3年前からMBAで教えていますが、初年度と今年にそれぞれ中国人留学生を迎えました。彼らは中国の小説や漫画を紹介するアプリを開発し、日本で起業したいと言っています。韓国のアニメやドラマが日本ではやっているのを見て、中国の作品をスマホで視聴可能にするところにビジネスチャンスを見いだしたようです。期せずして違う年度に学んだ2人の中国人留学生が全く同じことを考えたということは、日本人のサブカルチャー、ポップカルチャー、エンターテインメントに対する関心とレベルの高さを表していると言えるでしょう。そこにビジネスチャンスを見いだせるということは、文化交流、文化の力が今後は決して侮れない新たな成長戦略になる兆しであると私は思っています。
ただ文化を文化だけで終わらせてしまうと、根が浅く一過性のものになってしまうかもしれません。ブームから次につなげるためには、日中韓で観光共同体的なものを作ったらどうかと私は考えています。先ほど日本人がなかなか中国に行かないという話がありましたが、その対策も含め、3カ国で共同体を作ってビザや通貨の問題を解決するための共通の枠組みを作れば往来も簡単になりますし、セキュリティー面のリスクもかなり軽減され、自由な行き来が今以上に進んでいくと考えられます。
人が動けば当然お金も動くし、価値観を共有するチャンスも増えます。政治問題の解決は難しいでしょうが、まさに観光が一つの大きなパワーになりつつある今、草の根レベルの交流に文化を取り入れていく視点が大事になってくるのではと思います。それに対する正当な評価とサポートを行うことで、日中韓の関係がより良くなることに期待したいと思います。
人民中国インターネット版
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